「短期賃貸借保護制度」が今年2004年3月末日で廃止される。これにより、抵当権付物件の賃貸借で、物件が競売に出され落札された場合には、住み手(借り手側)は以降6カ月しか利用できなくなる。これは当然オフィス・テナントのケースにも適用される。これからは、賃貸する物件に抵当権が付いているかいないか等を知り上手に対応するのも、ファシリティマネージャーの腕にかかってきそうだ。
短期賃貸借保護制度」とは、抵当権が付いた物件の(3年以内の)建物賃貸借で、物件が競売に出され落札されても、残りの期間は利用できるという借り手保護の制度。これが2004年3月末日をもって廃止される。法改正の背景には、不良債権処理の過程において行われる不動産競売において、執行妨害が後を絶たないという実情があるといわれる。
 少し詳しく見てみよう。下図の上側が短期賃貸借保護制度で借り手の権利が守られていた<いままで>の例。抵当権付建物を賃貸借した場合の原則は、(c)差押・競落の段階で本来借り手は退去しなければならなかった。しかし例外として、3年を超えない建物賃貸借であれば、抵当権が実行され新たな買受人(新オーナー)が現れても、残りの期間は利用することができ、退去時には買受人に敷金精算を求めることができた。これが短期賃貸借保護制度である。
この制度が廃止される2004年4月1日以降はどうなるかを示したのが、下の<これから>の図だ。法改正後は、賃貸借の期間がどうであれ、抵当権が実行されて新たな買受人が現れ、賃借人に対し建物、スペースの明渡請求をすれば、(c)差押・競落の時点から6ヵ月後には退去しなければならなくなった。また、買受人から敷金の返還を受けることもできなくなったのである(旧所有者に対してのみ精算の請求ができる)。
短期賃貸借制度廃止のBefore&After
 
 2004年3月31日以前に、賃貸借契約を結び、すでに引渡しも済んで現在契約中である物件については、2004年4月1日以降も引き続き短期賃貸借保護制度が適用される。つまり、契約期間または更新期間が3年以内の契約であれば、抵当権が実行されても残りの契約期間(または残りの更新期間)中は利用することができるわけだ。しかし引渡しが2004年4月1日以降になるものについては、短期賃貸借保護制度の適用はないことになる(下図参照)。
 要するに物件の引渡し日が2004年4月1日より前か後かが問題で、2004年3月31日まで従来通り短期賃貸借保護制度が適用、2004年4月1日以降であれば適用はないということだ。いずれにしろこれからは、借りようとする物件に抵当権が付いているかいないかについて、仲介業者の説明によく耳を傾けるべきだろう。その事実を知らずに賃貸借契約を締結して、ある日突然「6ヵ月後に退去してください」と言われる事態だけは避けたいものだ。
■物件の引渡日による違い
物件の引渡日 差押・競落後、住み続けられる期間 退去時の敷金精算の相手
2004年3月31日まで 残りの契約期間(更新期間) 新所有者(買受人)
2004年4月1日以降 6カ月間 旧所有者(賃貸人)
2004年4月1日を境に借り手の立場や退去時敷金清算の相手がガラリと変わるから要注意。
今後借りる物件が抵当権付であるかどうかも、契約時に「重要事項説明書」で充分チェックしたい。
 短期賃貸借保護制度の廃止は、借り手側の権利を縮小する方向の法改正といえるが、物件の「賃貸借契約時」に限っていえば、借り手側(貸し手側にも)に耳寄りな新しい契約システムが登場してきている。信用補完を使った「ゼロシステム」という契約方法だ。これは「敷金・保証金がゼロになる」という画期的なもので、特約付賃貸借契約を結ぶことにより?初期投資額の大幅な軽減、?敷金・保証金を預ける不安からの解放、?資金を流動化できる、?決算上のオフバランス効果が得られる、等の借り手メリットを生み出す。貸し手側であるオーナーにも賃料・原状回復保証があり、借り手貸し手双方にメリットが生まれた。コストが削減され、安心して賃貸借しつづけられる方法として、今後ニーズが高まると予想されている。
 今回の法改正によって、賃借人は従前の賃貸人に対してしか敷金の返還請求をすることができなくなるわけですが、現実問題として、抵当権を実行されるような賃貸人に敷金を返還する資力があるとは考えられません。つまり、賃借人としては敷金の返還請求を事実上諦めざるを得なくなる可能性が極めて高いわけです。そこで、物件に抵当権実行のための差押がなされた場合には、賃借人が敷金の金額分だけ賃料の支払いを止めることによって、事実上敷金の回収を図ろうという動きが出てくることが十分に予想されます。平成14年3月28日に最高裁判所が出した「賃借物件の明け渡し時に未払賃料があれば、それを差し引いた残額で敷金返還請求権が発生する」という判決も、上述のような賃借人の行動に少なからず影響を与えるものと考えられています。
 また、新しい制度の下では、抵当権者に対抗することができない賃借人は当該物件の買受時から6ヵ月以内に建物を明け渡さなければなりません。ですから、抵当権実行のための差押がなされた場合には、賃借人にとっては、賃貸人から賃料不払いによる契約解除をされること自体によるデメリットよりも、むしろ上記敷金の回収と間もなくやってくる移転のための原資を捻出することの方が、より切実な問題となるでしょう。
 ですから、賃貸借契約の当事者としては、敷金の設定などの際に、将来こうした事態に至る可能性があることを十分に考慮する必要があります。また、契約当初から、信頼できる仲介業者を選定する目も、これまで以上に必要となるでしょう。重要事項説明書や賃貸借契約書の他にも不動産登記簿謄本などに契約前に目を通すことも大切です。